かわいい!もの
バックナンバー
ケトル
文・写真  野呂珍平

近頃の住まいは、3LDKとか4LDKとか、ほとんどがLDKタイプである。どこの家に招かれたときも、リビングルームから、キッチンがよく見える。そんなとき。僕の視線は、キッチンのレンジに注がれる。レンジの上にフライパンや鍋を置いたままにしている主婦は少ない。でも、ケトルが置かれている家は、多い。

僕は、レンジにあるケトルで、その家のモノに対する見識や趣味性を判断材料にしている。レンジに素敵なケトルがあると、それだけで「この家の主人は感性がいい」と、確信する。なぜなら、ケトルの佇まいは、キッチンの主役であるからだ。

僕の女友だちで、関西に住んでいる器好きの人がいる。料理上手で、僕も同級生の友人と何回か夕食に招待された。彼女は器に対して造けいが深く、お皿、小鉢、ボールなど、素敵な器をたくさんもっている。盛り付けも料理と器がマッチしたものを選んでいる。民芸、作家もの、古伊万里、古九谷から洋食器まで、彼女の審美眼の良さが伺えるコレクションである。


日本製の銅製やかん

北欧のケトル

アメリカ製のホーロー・ケトル


ただし、残念ながらレンジに置かれていたケトルがみすぼらしかった。近所のスーパーで安売りしているようなアルミ製で、形も色も悪い。それにケトルの側面に2ケ所、凹みがある。ケトルの蓋が歪んでいてうまく収まらない。どうも彼女は好きな器だけに目が向いて、ケトルは興味がないようだ。

そこで、僕はいつもの食事のお礼に、ケトルをプレゼントすることにした。さて、どんなケトルを贈ろうかと考えて選んだのが、柳宗里さんがデザインしたステンレス・ケトルである。モダンな感覚と和風の美が融合したような美しい形である。それでいて、使いやすく機能性に溢れている。このステンレス・ケトルは、光沢とつや消しの2種類があった。僕は、落ち着いた雰囲気のつや消しを選んで、彼女にプレゼントした。


チンペイ愛用のホーロー・ケトル


去年の暮。
久しぶりに彼女の家に寄ったとき、レンジに柳宗里さんのケトルが置かれていた。彼女のキッチンが、以前より素敵に思えたのは、僕のひとりよがりだろうか・・・。

他人の家はともかく、僕の家では、白のホーロー製ケトルを使っている。どちらかというと、男性的でレンジの上に、どっしり座ったような量感がある。このケトル。持ち上げるとき重く、取っ手がすぐ横に倒れるので、使いづらい。あまり他の人にはお勧めできないケトルである。だが取っ手の部分と蓋の摘みが黒という配色がいい。もし黒色がなくケトルの全体が白だったら、病院のベッドみたいで気持ちが悪い。白いホーローのケトルに、ほんの少し黒があるだけで、キュッと小股が切れ上がった感じがする。ただし白のケトルの評価は、いまのところ二つ星にとどめておく。

話は余談になるが・・・。
先日、友人がフランスから東京に帰ってきた。そこでパリの台所事情の話題になった。おもしろかったのは、いまパリでは、日本の高度成長期に流行した花柄ケトルが人気らしい。日本では花柄ケトルはダサイと言われているが、人の感性は国によって違うのだろうか。

僕もパリにいくことがあったら、花柄ケトルを持って行こう。パリジェンヌに「トレビアーン!」と、言わせるために。


日本製の花柄ケトル

アルミ製のケトル

ホーロー・ケトル

back
[HOME]