男の雑貨

フリーマーケットは、即決買いが正解。
文・写真 野呂珍平
 
雑貨好きは、フリーマーケットへ行こう。
フリーマーケットは雑貨の宝庫。タタミ一畳ほどのスペースに200店ほどの店舗が並んでいる。オーナーと呼ぶべきか、店主といったらよいのか、個人商店主は、圧倒的に若い女性と中高年の男性。
都内なら出店場所は、新宿中央公園、野村ビル、世田谷公園、明治公園、代々木公園といったあたりで、毎週末の土、日曜日、定期的に開催されている。
数多いフリーマーケットのなかで、僕がいちばん気に入っているのは明治公園。
フリーマーケットに向うときは、すこし気持ちが昂揚する。
「今回の合コンは、どんな娘に出会えるか愉しみだ」ではなく。
こちらは「今日はどんなモノと出会えるか」といった期待感である。
なにしろフリーマーケットでは、いろいろなモノを売っている。
食料品を除けば、衣類をはじめ家具、電気製品、玩具、骨董品、陶器、腕時計、カメラなど、まさに雑貨のデパート。
ある程度の商品知識と値段を心得ていれば、気に入ったモノが安く買える。
売り手と交渉して、安いモノをさらに安く買うこともできる。それに消費税がないから、気に入った雑貨を安く手に入れることができたときは、思わず頬が緩む。
去年の夏。明治公園のフリーマーケットで、イギリス製の木彫りの犬を売っている人がいた。僕は一目でこの犬の木彫りが気に入ったが、その店の前に座り込んで、買おうか買うまいか迷っている先客がいた。
僕はかまわず先客の横から「おじさん、その犬いくら」と、尋ねた。
おじさんは「一匹なら2000円、二匹一緒なら3500円でいいよ」と、言った。
この一言で、おじさんの目の前の先客から僕に交渉権が移ったことになる。
僕は、先客に遠慮せず「それ、二つ買います」と、きっぱりした声で言った。
先客は「やられた」という感じで、僕の顔を羨ましげに見あげた。
僕は、おじさんに「気持ちおまけしてよ」と、一声かけてみた。
気のいいおじさんは「じゃあ、500円おまけして、3000円でいいよ」と、言ってくれた。
結局、僕は二匹の木彫りの犬を3000円で買うことができた。
おじさんは二匹の犬を新聞紙で包みながら「いい買い物だよ。これはロンドンで買ったら、倍の値段はするよ」と言ったが、僕は3倍くらいすると思った。
木彫りの犬が入ったビニール袋をぶらさげて、ルンルン気分で歩いていると、僕の肩を後ろから叩く人がいた。
振り返ると、さきほどの先客だった。
「すみません。お買いになった犬を一匹わけていただけませんか」
僕が二匹とも買ったので、どうやら欲しくなったらしい・・・。
「一匹3000円でいかがでしょう」と、尋ねてきた。
迷っていたモノを誰かに買われてしまうと、よけいに欲しくなる気持ちがわからないわけではない。それに一匹3000円なら、僕は3000円儲かる。
先客の申し入れにすこし迷ったが・・・やはり丁重におことわりした。
残念そうな表情を浮かべ、先客は肩で一息ついて、その場を去って行った。
教訓。フリーマーケットで気に入ったモノに出会ったら、即、買うこと。
「ひとまわりしてから考えよう」などと、のんびりしていると、必ず売れている。僕自身、何回か、さきほどの迷っていた先客と同じ思いを味わったので、フリーマーケットでは「即決買い」を、貫いている。

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