男の雑貨

雑貨は「気分商品」。
文・写真 野呂珍平
 
男の雑貨
 
女はムードに弱いと、言われている。(ムードという言葉は古いかなぁ)
だから男は好きな女性と初デートのときには気合いが入る。
まず、ムードのある場所を選ぶ。
庭園がライトアップされた幻想的なレストラン。夜景の美しいバーなどに女性を誘い、ムードを高める。デート場所の選定としては正統派といえるが、これは本当に効果的なのだろうか。
じつは男の勘違いというか、思い込みではないだろうか。
女性はもっと現実的で賢い。逆にムードに弱いのは男のほうだと、僕はつねづね感じている。例えば、アウトドアライフが好きでもないのに、4輪駆動のチェロキーに乗ってその気になっている男。サーフィンができないのにビートルのキャリアにボードを積んで、都内を走り回る男などは、その典型。
とりあえずカタチから入って、ムードに酔っている。
若い女性がレストランを選ぶときは、雰囲気だけでは満足しない。リーズナブルな料金で味も良くなければと、男より欲張りで、シビアである。
分不相応なところに連れて行くと、「この人散財癖があるんじゃないかしら」と、疑われたりする。
僕が知っている20代の男性は、ガイドブックでレストランを探し。お目当ての彼女とのデート前日、必ず下見をする。しかもひとり1万円もするようなレストランを予約する。彼はまだ薄給なので、一流レストランに彼女を連れて行く身分ではない。僕が驚いたのは、デートのために下見をする行為。それもレストランだけではなく、その後の散歩コースやバーまで含まれていた。あまりにも綿密なスケジュールにあきれ、僕は彼にアドバイスした。
「高級なレストランは堅苦しくて、彼女と打ち解けた話ができないから、もうすこし気軽なレストランにしたら・・」と。
すると彼は「最初のデートが大事で、女性はムードに弱いから多少の出費はいいんです」と譲らず、一流レストランを予約した。
後日。社内で彼に出会ったので「どう、デートはうまくいった・・」と尋ねた。
「う〜ん、失敗でした」と言って、彼は頭を掻いた。
「ムード」という英語を日本語に解釈すると「気分」といった意味になる。
男は単純だから、一流レストランを予約したとき、彼女が満足した表情を想い浮かべ、成功した「気分」に浸ってしまうことが多い。
僕は彼よりおおざっぱな性格だから、レストランの予約もしなければ、下見もしないが、ムードに弱いからなんとなく彼の気持ちがわかるような気がする。
ムードに弱いのは、男女の関係だけではない。雑貨でも、男は商品を「気分」で買い、女性は「実用」で買っている。
僕がモノを選ぶときは、商品の使い勝手といった本質的なことはどうでも良く、まずはカタチとデザインが第一優先。つまり商品がもつ「気分」を買っていることになる。
街を歩いていて「気分のいい雑貨」に出会ったとき、まるで初恋の人に出会ったように胸がドキドキする。ときにはオーラさえ感じる。先日もある雑貨を見つけた瞬間。その雑貨が僕と出会うため、ガラス・ケースのなかでじっと待っていてくれたのではないかと想像し、涙がでそうになった。
旧い蛍光灯スタンドに出会ったときも、スケルトンの目覚まし時計のときも、フリーマーケットで鉄人28号のブリキのおもちゃを発見したときも胸が熱くなった。僕はその胸の高なりを押さえながら、モノとの出会いに感謝した。
モノが溢れている時代といわれているが、デパート、ブランド・ショップ、スーパーに行っても、ときめきを感じるような商品には、なかなか出会わない。
それだけに「気分」のある雑貨に出会ったときは、ひとしお感激が大きく、つい衝動買いをしてしまう。

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