創業73年のフローリスト、「ジェフリー・アンド・アン・ルイス」
文・写真 藤田 幸子


  ロンドンの中心から北へ車で30分位行ったところに、住宅街に隣接した小さな目抜き通りがある。 高級住宅街のハムステッドを抜けてその通りに入ると、その可愛いらしさと、イギリスらしいどこか ひなびた趣のある街並に私は目をひかれた。 東京ほどではないにしても、ロンドンも、ごく中心部は時代とともに現代的に変わりはじめている。 しかし、古いもの、伝統的なものを好む人々は、暮らす街の空気は変えない。 可愛くて、趣があり、いまもなお人々の生活の匂がする街、ハイゲート・ビレッジを訪れ、その目抜き 通りにある一軒の花屋さんにおじゃました。  


  その花屋「ジェフリー・アンド・アン・ルイス」の現在のオーナーは、ミセス・アン・ルイス。2年前に 亡くなったご主人のジェフリーさんと、そのご両親が73年前にはじめた店を、彼女と息子さんと数名の スタッフとで切り盛りしている。 ミセス・ルイスはニュージーランド出身。60年も前に、フローリストとしての経験を積むため、ニュージーランドで経営していた花屋を閉めて、ロンドンに渡ってきたとのことである。当時からイギリスの 園芸関係の教育システムは他のどの国よりも充実しており、数ある施設、なかでも有名なキュー・ガーデンを 訪れたことは、ガーデニングを学ぼうとしていた自分にとって、とても大きな経験になった、と昔をふり返って話してくれた。
園芸、フラワー・アレンジメント、ガーデニングなどの理論の教育を受けることは重要、そして実践は もっと重要。この店でも、昔から学生のスタッフがしばらく働き、実践を積んでは辞めて、それぞれの 道を進んでいったという。 80歳を越えたミセス・ルイス、淡々と語ってくれた。 「成功した人も、しなかった人もいるけれど。」
 


  ミセス・ルイスはフローリストとして、長い年月、人々に愛され、活躍の場が与えられた人のようだ。
オックスフォードやパリにまでウェディングのアレンジメントで出張することもある。
「特別に宣伝をしているのですか?」との問いに、
「ノー。この花嫁の両親の結婚式も私がアレンジしたのよ。そういう人がまた 頼みに来てくれます。」
「いちばん大事なのはお客さまが、また来てくれること。たとえ、お金を沢山使わない人でも、何度も足を 運んでくれるお客さまが、とても大事です。」と真直ぐな視線で話す。 「ジェフリー・アンド・アン・ルイス」は伝統的なイギリスのスタイルを大事にしていると語る。 同時に「頼まれれば、東京にも行きますよ。」と笑うミセス・アンは依頼主それぞれの希望を、確かな 技術と誠意をもって実現しているように見受けられた。


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