イエローブックで探したプライベートガーデンを訪ねて
文・写真 藤田 幸子


年2回発行される、通称「イエロー・ブック」。正式名「ガーデンズ・オブ・イングランド・アンド・ウェールズ・オープン・フォー・チャリティー」は、70年の歴史をもつ慈善団体、全英庭園機構が出版しており、内容はその年に一般公開されるプライベート・ガーデンに関する情報誌である。 この本で、さっそく公開日をチェック、気になる庭園の公開日を楽しみに待った。

初めて伺ったお宅は、私の家から歩いて行ける距離で、「ちょっとご近所まで」といった感覚。入場料1ドルを払い、庭に入るといち面に広がる新緑の芝生が目に染みる。爽やかな風が吹きはじめると、クルミの大木から白い花がサワサワと芝生に落ちて、風情のある景観となる。庭の周辺には、色鮮やかなバラやアイリス、ゼラニウムなど、多種多彩な花が咲き乱れて、これぞイングリッシュ・ガーデンといった雰囲気。

「デザインした庭ではなく、自然のままの美しさを残すのがテーマ」というオーナーは、70歳くらいの気品あるご婦人。光る新緑、みずみずしい木影、そして色とりどりの花ばなを眺めていると、確かにこれ以上なにもいらないように思える。 イエロー・ブックには、ロンドンだけでも300近い「ガーデン・オープン」の情報が載っている。
私のように自宅の近くにある庭へ散歩がてら訪れてゆったりしたひとときを過ごしたり。ときにはドライブを兼ねて郊外のプライベイト・ガーデン訪問は、ロンドン流週末の、とっておきの過ごしかたである。 しかしガーデンのオーナーにとっては、年に一度の大イベント。庭の手入れはいつもより入念に、お茶やケーキを用意し、椅子やテーブルをセッティングして、家族総出でお客さまを迎える。
上記の家の向かいにあるプライベート・ガーデンでは、オーナーが親しい来客に「今日は10種類のケーキを一人で焼いたのよ」と自慢している。ここを訪れる人達は、「Congratulation」とオーナーに声をかけ、つぎつぎに庭を褒める。それはオーナーが、毎年庭を新しくしていることを知っているからだろうか。「草花の手入れは毎日欠かさずやり、本やテレビで情報を得たものを自分なりにアレンジして、庭に活かしています。だから今日は特別の日なの」と語るオーナーにとって、ガーデン・オープンは個展のようなものといえる。


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